ヒメアノ~ル “Himeanole”

ラブコメディ色の強い前半から一転して後半はホラー要素の強い演出で描く『ヒメアノ~ル』。今回は猟奇的殺人犯森田とその森田に命を狙われる岡田に主に焦点を当てながら書きたいと思います。
基本情報
V6森田剛主演『ヒメアノ~ル』予告編
Released in 2016 (Japan)
Directed by 吉田恵輔
Produced by 由里敬三・藤岡修・藤島ジュリーK.
Written by 吉田恵輔
Based on Manga by 古谷実
Music by 野村卓史
Cinematography 野村卓史
Starring 森田剛・濱田岳
↓↓↓これより下はネタバレがありますので、ご注意ください!↓↓↓
あらすじ
大まかなあらすじを確認しておきますと、このお話の主人公となる岡田が職場の先輩・安藤の天使(好きな人)が働いているカフェに行くところから始まります。するとそこには高校の同級生で久しく会ってなかった森田がいました。森田はユカのことをストーカーしており、その相談に乗っているうちに付き合うことになりました。森田はお金を脅し取っていた男を殺害した後、殺人を繰り返し、最後には岡田の家にユカがいることを探し出し、襲撃します。岡田が警察に通報したことにより森田は岡田を人質に車で逃走を試みますが電柱にぶつかり警察に捕まってしまいます。
森田はいわゆる連続殺人犯と呼ばれることでしょう。しかしながら、私がイメージするシリアルキラーとは少し異質な気がするからです。森田は高校の同級生である和草にお金を脅しとっていました。お金を横領することで森田に渡していた和草はこの状況に耐えかねて森田を殺害しようとしますが、逆に森田に殺されてしまいます。お金を得る当てがなくなった森田は次々に人を殺害することでお金や住む場所を確保していきます。
生活感のある殺人
一般的にシリアルキラーとは快楽殺人犯の印象が強いのではないでしょうか。『ヒメアノ~ル』の中で中心的に描かれる森田の殺害シーンは生活をするために行っているものです。少なくとも主な目的は人を殺めることではなく、自分が生きていくためだと考えられます。彼は、お金がなかったのです。同級生をゆすることで生活費を得ていた彼にとってお金とは稼ぐものではなく、簡単に奪えるものだと考えていたのでしょうか。彼が岡田と二人で飲みに行く場面があります。その中で森田は自分が社会的に低い立場にあること、そんな自分がどんなに頑張っても上にいる人たちにはなれないという旨の発言をしています。そんな認識が、まともに働いて稼ぐのではなく奪うことでお金を得るという誤った選択をしたのかもしれません。そこには衣食住が満たされたな中で自らの喜びを得るための行動ではなく、生活をするための手段でしかないのです。生活をするため殺人を犯すこと。生活感のある殺人ともいうべきものではないでしょうか。
原作において、森田は本当に先天的な快楽殺人犯として描かれているようですが、今作を見る限り私はそんな印象は受けませんでした。あくまで快楽ではない方向で殺人を行っているような文脈でみることもできると考えています。
岡田への共感
岡田は森田と違ってより私たちと近いところにいる気がします。同級生に再開した時の気まずさ。過去に他人にやってしまった言動によって他人の人生を大きく変えてしまったのではないかと考える罪悪感に近いしこりのようなもの。岡田にとっては高校に入学して初めてできた友人である森田を、自分が嫌がらせを受けたくないがために、森田を売って嫌がらせを助長したことを後悔しています。そして森田に恨まれていると考えています。程度の差こそあれ、このようなことは誰しもが経験していることではないでしょうか。あの時やってしまったことがもし森田のような人物を生み出すことになっているとしたら……。そう考えれば岡田のような存在はとてもスクリーンの中だからと片づけられるようなものではなくなってきます。
印象的なラストシーン
最後の場面。電柱にぶつかったことで本来?の森田が姿を現します。その人格は高校時代で時が止まっているようでした。警察に連れていられる森田。シーンが変わって、学校だろうか映像が映し出されていく中、岡田と森田の会話が聞こえる、初めてしゃべったのだろうかお互いよそよそしい。またシーンが変わって夏。とても暑そうな季節なのが分かります。高校生と思われる森田の声が聞こえます。一緒にゲームをしている二人、森田と岡田でしょうか、他の史郎です。その時森田が声を発します。「お母さーん。麦茶持ってきてー。」エンドロール。とても画面がキラキラしていました。もし最後のシーンが森田の記憶だとしたらそれは間違いなく森田にとって岡田と遊んだ時間は楽しいものであったに違いありません。森田にとって岡田は憎いだけの存在ではなく楽しく遊んだ友人としてもいたのかもしれません。
森田と岡田二人について書いてきましたが、最後まで見ると様々な見方や感情が出てくる面白い映画だと思います。何度でも見直していきたい映画です。
そういえば森田がなぜユカのことを見ていたのかという理由は私には明確にわかりませんでしたが、おそらくユカに好意を抱いていたと推測するとします。映画のタイトルであるヒメアーノルとはヒメトカゲというトカゲの種類を指すようで、強いものに食われる弱者の比喩として使われているみたいです。そうであるならば、ユカと交際した岡田は強者となり、好意が届かなかった森田と安藤は弱者となるのではないと考えられるためその点も面白く感じました。
最後に、感想を観たりしていると「岡田と彼女がセックスしているシーンと森田が殺人を犯しているシーンが重なって交互に映し出されていくシーンがあってとてもよかったのです」とあったりするので、ああ確かによかったなと思うのですが、ふと思い返してみると、あのカップル二人でお好み焼きを食べている時いろんなところ行きたいとか言っていたのに、結局セックスしているシーンとピロートークぐらいしか印象にないくらいベッドでのシーンが多いなを思って少し笑えました。(岡田の家で森田に襲撃された時も彼女と岡田はベッドの上で抵抗してしましたし何かとベッドが出てくる映画だとも思いました。)